飼いネコの糖尿病検査で飼い主に伝えるべき情報とは

イヌやヒトに比べて、ネコは糖尿病になりやすく、また治療が難しいといわれています。そのため「飼い主さまに治療方針をうまく説明できない」、「飼い主さまの教育が難しい」と悩んでいる獣医師の皆さまは少なくないのではないでしょうか。

逆に飼い主さまにもわかりやすいアドバイスができるようになれば、長期的に付き合える飼い主さまが増えるだけでなく、その信頼も得ることができると思います。
また治療からの離脱を防ぐことにもつながるので、多くのネコの命を救うことにもなることでしょう。

そこでこのブログでは、飼いネコの糖尿病検査で飼い主さまに伝えるべき情報や伝え方のポイントなどについてご紹介します。

正常体重のネコと肥満ネコの糖尿病リスクの差は説明するべき?

ネコの糖尿病で多いのは2型糖尿病(インスリン抵抗型)ですが、その一因に挙げられるのが肥満です。つまり、飼い主さまに肥満にならない生活環境を整えてもらうことが、そのまま糖尿病予防にもつながるのです。糖尿病を未然に防ぐためには、検査した個体の体重にかかわらず、検査後に正常体重と肥満のネコでのリスクの違いについて、飼い主に説明しておいたほうが良いですね。

正常体重のネコの飼い主さまにリスクの差を伝えるべき理由とポイント

ネコの糖尿病は、適正な治療を行えば寛解の可能性がありますが、治療が大変なことが多いものです。
そのため、飼い主さまもネコ自身も、生活に大きな負担やストレスを強いられる可能性が高い病気です。また治療の際に使用する療法食は、通常のフードよりも割高であることが多く、経済的な負担が増えることも否めません。

そのため飼い主さまには、糖尿病検査の際には体重によるリスクの差を伝えるとともに、「お互いにストレスなく、楽しく生活するためにも、これからも糖尿病に気を付けた生活を送ってくださいね」とお話するのが良いのではないでしょうか。

肥満のネコの飼い主さまに特に伝えるべきこととは

糖尿病検査の結果にかかわらず、すでに肥満が疑われるネコの飼い主さまには、上記の内容に加えて、肥満を解消するためのアドバイスも加えてあげるのがオススメです。

肥満ネコの飼い主さまの多くは、肥満の理由がよくわかっていなかったり、食事制限するのがかわいそうだと思っていたりすることがあります。
前者の場合は飼い主さまから話を聞いて、肥満の原因がどこにあるのか一緒に考え、それをもとにアドバイスをしてあげるのが良いでしょう。

後者の場合、肥満によるリスクを説明したうえで、糖尿病になるとさらに食事が制限されることを理解してもらうよう説明しましょう。

検査後に血糖値が高かったネコの糖尿病の可能性の伝え方

イヌの場合と違い、ネコの糖尿病診断は検査の結果で即決はできません。ネコは興奮状態にさらされたり、常にストレスを強いられる生活を送っていたりすると、血糖値が一時的に高くなることがあるからです。ストレス性高血糖の場合、500mg/dL以上になることもあり、一概に「高血糖=糖尿病」と言えないのが現状です。そのため、ネコの糖尿病診断に自信を持てない場合もあるようです。しかし飼い主さまはこうした情報を知らないことがほとんどです。そのため血糖値の数値だけを伝えてしまうと、「高血糖=糖尿病」と思い込んでしまう可能性があります。結果、過剰な食事制限をしてネコが低血糖になってしまうこともあるかもしれません。

こうした事態を防ぐためには、ネコの血糖値が変動しやすいこと、また糖尿病の診断が難しいことを伝えたうえで、「糖尿病の可能性がある」と話すのがよいかもしれません。
検査の結果については、先に話しても良いと思いますが、その場合は「数値は◯◯と高めでしたが、ネコの場合は数値が高いからといって糖尿病とは判断できないんです」と、具体的な言葉で伝えることが大切です。

その上で、今後どのような対応をしていけばいいのかを具体的に伝えましょう。曖昧な説明だけだと、「これからうちの子はどうなってしまうんだろう…」、「別の獣医師の先生に診てもらったほうがいいのでは」と不安になってしまうかもしれません。具体的な指示やアドバイスにより、飼い主さまの不安を取り除いてあげることは大切です。

糖尿病治療の効果を説明するときのポイント

前述の通り、ネコは血糖値の変化が激しく、また治療も難しいという側面があります。
しかし寛解することも珍しくないため、ネコの状態に応じた治療を根気よく続けていくことで、これまでと変わらない生活を送ることも可能といわれています。

ただ、これらの情報を断片的に与えてしまうことで、楽観的になったり、逆に悲観的になったりする飼い主さまもいます。ここでは糖尿病治療の効果を説明する時に、押さえておくべきポイントについてご紹介します。

治療の種類と効果、何を選択すべきかについて具体的に説明する

インターネットで「ネコ 糖尿病 治療」と検索すると、たくさんのサイトが表示されます。最近ではこれらの情報をもとに、獣医師の先生に治療の変更などを求める飼い主さまもいるため、なかなか治療方針を理解してもらえない人もいるでしょう。

飼い主さまがこのような行動に出るのは、「本当にこの治療法でいいのか?」、「この先生に任せていいのか」と不安に感じているからかもしれませんね。

できれば、あらかじめどんな治療法があるかを説明したうえで、「あなたのネコのためにはこの方法が適していると考えられる」と、具体的に説明してあげるのが良いでしょう。
また、他の治療法をなぜしないのかについても具体的に説明してもらえれば、飼い主さまも治療に協力的になってくれるはずです。

費用について伝える

治療の内容とともに、飼い主さまが気になるのがその費用だと思います。治療法を説明する際には、だいたいどれくらいの費用が必要になるのかを伝えておきましょう。できれば療法食の費用などについても伝えておくのがオススメです。

血糖値の結果に一喜一憂しない

前述しましたように、血糖値の結果はネコの状態によって大きく変わります。
その点を踏まえた上で、高血糖・低血糖だからと一喜一憂せずに正しくネコの状態を
判断することが大切だということを伝えておきましょう。

寛解の可能性があることを伝える

ヒトの場合、糖尿病は一生付き合っていかねばならない病気のひとつです。
合併症で命を落とす人も多いため、飼い主さまによっては糖尿病という結果に絶望的になる人もいるかもしれません。

しかし、ネコの場合はインスリンが不要になることもありますし、合併症リスクもそれほど高くはないといわれています。
もちろん楽観視することはできませんが、適した治療を続けることで、良い状態を目指すこともできるということを伝えておくのがオススメです。

まとめ

糖尿病は長く付き合っていかなければならない病気ですが、ヒトやイヌのそれとまったく異なるものでもあります。その点を正しく説明するとともに、飼い主さまとしてネコにできることは何なのかを伝え、不安にさせないことが大切ですね。今回の内容が、皆さまの診療のお役に立てますと幸いです。

獣医師Y

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